日 時  2022 年 11 月 16 日(水)19:00~21:00
会 場  社会福祉法人石井記念愛染園 大国保育園
テーマ  子ども理解を深めよう~一人ひとりの子どもの感じ方の違いを学ぶ~
講 師  大阪公立大学 木曽 陽子 准教授(現代システム科学研究科)
参加者  会場参加12名 ZOOM参加10名

研修報告
大国保育園のホールとZOOMによるハイブリッド開催で実施した。
①インクルーシブな社会に向けて ②視点を変える ③子ども理解を深める ④具体的な手立てを知るという4項目にわけて話であった。簡単なワークなども交えながらで長いようであっというまの2時間だった。

●インクルーシブな社会に向けて…
 分離保育と統合保育とインクルーシブ保育という考え方について。環境を分ける保育なのか、障がいがあるかないかの区別をしたうえで混ぜこむ保育なのか、子どもそれぞれにはそれぞれのニーズがあるという観点からの保育なのか。枠組みを変えないままだと保育者も子どももしんどいという状況になってしまうこともある。

●視点を変える
 子ども理解をすすめるために視点を変えることの必要性を具体的なエピソードを交えて解説があった。先生(保育士)が困っているというよりも子どもが困っているという視点の切り替えが重要である。子どもの行動をどうとらえるかということに関しても、子ども自身に原因があるとなりがちであるため、周囲を取り巻く環境からの影響と環境への影響によって行動は変容することを知っておく必要がある。

 とはいえ、保育者自身の困り感は実は大事で、子どもの育ちにくさ、つまり子どもの困り感の発見につながるものある。子どもの自己肯定感を下げないようにするためにも、職場環境の中でも保育者同士が困り感を共有できるということが大切だ。そして忘れられるのが気づかれず隠れたところで困っている子どもの存在で保育者の感度を高めていかないと見過ごされてしまいがちである。

 続いて保護者支援では、かつては早期発見、早期療育ということが言われ、気になる場合は積極的に伝えていた。しかし今は保護者の思いを無視した促しはトラブルとなることが多い。そのため保護者の認識を知ることからはじめることが重要である。もちろん家庭と施設では子どもの様子は異なることが多い、さらっと質問したつもりでも、保護者の側はなぜ聞かれるのかな?できてないと思われているのかな?などと感じてしまうことも多い。逆に日常の会話の中で保護者が不安なことを伝えていても、保育者としてはついつい大丈夫ですよと言ってその不安を取り除こうとしまっていることも多い。ところがその結果、不安なことは伝えにくくなってしまうことになってしまう。信頼・安心して話し合える関係がやはり重要である。

●子ども理解を深める
 子どもの行動をどうとらえるかということで、氷山モデルを説明していただいた。目に見える行動の背景には、①感覚、②記憶、③コミュニケーション、④興味・理解、⑤集中力・思考のくせ、⑥アタッチメント(愛着)の5+1の項目がある。

感覚について
 感覚には五感と固有覚・前庭覚があるとのこと、それぞれに鈍感さや敏感さがあり、足りない感覚を他で補おうとしたり、避けようとしたりしていることもある。

記憶について
 とくにワーキングメモリーについて。5歳児では平均2つくらい記憶できるものだそうで、多すぎると覚えることができていない場合が多い。集団の中では他者の動きを見て調整しているので、行動としてはうまくいってように見えている場合も多い。

コミュニケーションについて
 意味のズレや助詞の理解度、語用の理解度などが重要で、詳細に説明することで理解できる場合もある。音声言語は便利で使いやすいが、その取得にこだわるのではなく。要求・拒否や援助要請や自分の気持ちなどを伝達できる手段の取得が大切である。
 また、行動の前後をみる、応用行動分析の視点、気になる行動だけでなく他の場面も観察することも必要である。

興味・理解について
 ここでいう興味とは、活動への興味があるかどうかであり、理解とは、その活動の全体像をイメージし、流れを把握できているかであるとのことであった。興味があればチャレンジできることもある。不安が取り除ければ参加できることもある。

集中力・思考のくせについて
 活動にどのくらい集中できているかを観察する。考え方や物事のとらえ方の傾向を観察する。

愛着について
  特定のだれかと築く、ネガティブな感情を調整できる関係、一人だけとは限らないもの。
身体のくっつきから気持ちのくっつきへと離れていても安心できるようになる。

●具体的な手立てを知る
 手立ては4つある。①環境の調整、②力を伸ばす活動、③行動への支援、④コミュニケーション支援ということ。手立の前提として、大人のかかわり方の基本姿勢は子どもの意図を理解し、反応的、共感的に関わることである。

 環境の調整は、保育カリキュラムも含まれるので、カリキュラムの枠内に統合しようとすると、インクルーシブ保育となりにくいことを知っておく。合理的配慮の考え方も配慮によって公正さを確保していく、それは平等ではない場合もあることを理解しておく。さらにいうと、環境の調整によってそもそもの配慮が不要となる場合もある。

 力を伸ばす活動とは、まさに保育の取り組みであって、遊びを通じたからだづくりやことばあそび、見ること、聞くことなど保育活動を充実させる

 行動への支援は、なぜその行動がおこるのか、どういう行動をすればよいかを学ぶという支援が重要。①増やしたい行動:「できてあたりまえ」の行動も含む、②減らしたい行動:③に該当しないもの、③許しがたい行動:人を傷つける、自分を傷つける、法律を破る、という行動の分類の重要性と減らしたい行動やタイムアウトの方法などのみに着目するのではなく、増やしたい行動を強化することを優先してほしい。コミュニケーション支援についてはインリアルアプローチの技法を紹介していただいた。コミュニケーションは言語の取得が目的ではなく、楽しさ、有益さを実感できることが大切である。

●まとめとして

子どもは一人ひとり多様であることを前提に、すべての子ども一人ひとりのニーズに応える保育を行うことを目指していく方向である。それは子どもたちには、障がいの有無に限らず様々なニーズがあって、そのニーズに対応していくこと。1994年のサラマンカ声明に基づいていくことがインクルーシブな地域社会へとつながる道筋である。
大人の困り感にスポットあてるのではなく子どもの困り感にスポットをあてていく。
その子どもを理解するために行動の背景や原因を探る姿勢をもつ。
具体的な支援の方法は行動の背景や原因にもとづいた対応とする。
そして子どもたちは地域で生活しているということを忘れてはならない。

おわりに
 木曽先生は分かりやすい資料をもとに優しい語り口でエピソードを交えながら、丁寧に何故に応える形でお話しいただいたように思います。この日、参加されたされた方の多くが自身が関わる子どもたち、保護者の方々の顔を思い描きながら今回の講演を聞かれていたのではないかと思います。講義の中で出た様々なキーワードが自分の中に届きキーワード手掛かりに自身を振り返ったり気づきを得たり2時間があっという間の刺激的な時間となりました。木曽先生のお話しの中で特に好きになった言葉が“からだのくっつきと心のくっつき”です。子どもが見せる姿には、それぞれに意味があると伺ったように、私も子どもたちの理解者として、子どもたちから体をよせてもらえる、気持ちを寄せてもらえるようなそんな存在となりたいと、木曽先生のお話を伺い感じることができた貴重な気づきでした。木曽先生ご多忙な中、すてきなご講義ありがとうございました。参加された皆さんもありがとうございました。